【ヤマモトが行く】第二回:藤本啓子さん(@カフェP/S)
こんにちは!やまもとです。
カフェフィロメンバーが開催する各地の哲学カフェを訪れ、お話を聞く「ヤマモトが行く」。今回は神戸で哲学カフェを開催している藤本さんにお話を伺いました。
会場の「カフェP/S」のある商店街にはたくさんの喫茶店やカフェがあり、休日ということもあり賑わいを見せていました。この日は「制服」をテーマに哲学カフェが開催されましたが、道ゆく人の中にも対話の様子に関心のある方がいらっしゃるようでした。
カフェフィロの「老舗」哲学カフェ
山本:藤本さんは、カフェフィロの中でも長く哲学カフェを続けているメンバーのお一人だと思います。いつ頃から哲学カフェを開催されているのでしょうか?
藤本:改めていつ頃からやっているのか調べたら、2005年の3月に地元の岡山で開催したのが最初でした。ちょうどカフェフィロができる直前だったこともあり、その頃はまだ臨床哲学研究室の金曜6限(※)の中での活動として模索しながら開催していました。地元の知り合いに「OSERA」という雑誌の編集長の方がいて、哲学カフェの開催を支援してくださったのですが、「オセラ」というのは岡山弁で「大人」の意味なんですね。それにちなんで、そのときは「おとな」をテーマにしました。
※当時、大阪大学 臨床哲学研究室が金曜6限に開講していた合同演習のこと。学生や教員だけでなく社会人にも開かれた講座で、様々な分野の方が参加し議論が行われた。
その後まもなく、神戸のJUNで定期的に哲学カフェを開くようになりました。また途中から哲学カフェだけでなく、カフェP/Sで書評カフェやメディカルカフェも行うようになり、哲学カフェと交互に開催するスタイルになりました。それらを含めると月に一回ぐらいのペースで開催していますね。2012年にJUNが閉店してからは哲学カフェの会場もこのカフェP/Sに移しています。カフェを定期的に行う中ではいろんな工夫をしていて、サイエンスカフェなども開催したことがあります。
山本:2005年はカフェフィロが設立された年でもあるので、まさに「老舗」ですね。10年以上もカフェを継続させるのは大変だと思いますし、場所もあまり変わっていなくて単純にすごいなと思います。長く続けて行く中で定着された、いわゆる「リピーター」の方も多いのでしょうか?
藤本:多いと思いますね。今日の参加者もリピーターの方ばかりでした。
山本:なるほど。逆に、初めての方が参加される場合はどのようなご説明をされているのでしょうか?
藤本:今日はルールをよくご存知の方ばかりでしたので、特に説明はしていませんでしたが、初参加の方にはこのようなルールを書いた紙をお渡しして、哲学カフェの趣旨を説明するようにしています。
山本:今回初めて神戸の哲学カフェに伺って、このルールを拝見したのですが、改めて見ると、カフェフィロが結成当初から大事にしてきたことがわかるような気がしました。
兵庫は哲学カフェ激戦区?
藤本:最近は哲学カフェが各地に増えてきましたので、P/Sでの哲学カフェの前に別の場所での哲学カフェにも参加して、「ハシゴ」される方もいらっしゃいます(笑)
山本:活発な参加者の方もいらっしゃいますよね。私も「ハシゴしてきた」とおっしゃる参加者の方にたまに出会います(笑)哲学カフェが増えてきた中で、変化を感じることはありますか?
藤本:同じ日に開催される哲学カフェが増えたので、テーマ次第で人が来るかどうかがはっきりしてきた気がしますね。
私は当初からやり方をあまり変えていませんが、他のカフェがどんな感じで進行しているのかは気になりますね。このカフェでは前半はテーマについて自由に話して、後半はそこから問いを絞って考える場合が多いです。前半でどんな話が出て来るか分からないので、その中で面白い問いを出せるかどうか、自分にとってもチャレンジですね。テーマにまつわる問題性を明確にして、カフェの時間だけでなく家に帰っても考えられるようにできるのが一番よい形だと思っています。
山本:テーマを選ぶときに意識されていることはありますか?
藤本:面白いテーマを選ぶのはなかなかしんどいですね(笑)自分の考えたいテーマを選ぶようにしています。
山本:私も哲学カフェをはじめた頃は「みんなこのテーマだったら来てくれるかな…」と思ってテーマを選ぶことがよくあったのですが、最近は自分が考えたいテーマを独断で選ぶことが多くなりました(笑)
藤本:その方が長続きするのかな、とは感じますね。
現場での哲学対話と哲学カフェ
山本:藤本さんは医療現場での哲学対話もされていますよね。どのような実践をされているのでしょうか?
藤本:医療現場での哲学対話はまず現場で起きた事例を検討して、そこから抽象的なテーマを設定する「倫理カフェ」をしています。例えば現場でのミスの事例が取り上げられた場合、前半はなぜそのミスが起こったのか、再発を防ぐにはどうすればよいかなどの具体的な検討を医療者たちと行います。後半の倫理カフェではその事例に関連しつつ、抽象化をして「人はなぜ間違いを起こすのか」などのテーマで議論をする、という流れですね。
山本:前半はかなり具体的な検討を行うのですね。
藤本:そうですね。現場の方は具体的な事例に興味があるので、しばしば長引いて後半のカフェの時間が足りなくなりますね。でも具体的な検討を続けると事例提供者の方の負担になるので、後半はそこから離れて全員で考えられるテーマを設定するようにしています。
山本:なるほど。哲学カフェとの違いを感じることはありますか?
藤本:現場はやはりいろいろな上下関係があったりするので、対等でsafety(安全)な場とは単純にいえない面もあります。その辺りは日常の人間関係から離れられる哲学カフェとは違うところですね。あと「倫理カフェ」でも抽象的なテーマを扱うのですが、その対話は前半の具体的な事例を引き受けたものになります。その意味では哲学カフェの方が自由度が高い、と言えるかもしれませんね。
毎回のカフェが学びの場
山本:藤本さんが哲学カフェの進行の際に心がけているのはどのようなことでしょうか?
藤本:神戸の哲学カフェは当初から必要以上に進行役が介入しないという形でやってきました。と言っても最近は自分の意見を言うことが多くなりましたが(笑)、参加者が話したいことを話して、その中で自分が聞きたいことを聞く。自分が議論を誘導しているのではなく、自分自身も議論に巻き込まれているような感じですね。
山本:自分自身が巻き込まれている、という感覚はよく分かります。私も、事前に予想していた展開と当日違う流れになった方が、新鮮で楽しく考えられる場合が多いです。
藤本:参加者が自由にしゃべる、というとただの「おしゃべり」のようになるのでは、と思われる方がいるかもしれませんが、自分が予想していない展開の中でいかに流れをつくれるかは進行役の力量次第だと思います。哲学カフェの進行役にとっても、カフェの場は毎回学びの場になりますし、自分自身の実験や探求の場でもあると感じますね。
山本:ありがとうございました。
おわりに
今回はカフェフィロの中でも歴史のある神戸の哲学カフェに訪れました。私がカフェフィロのメンバーとなったのはここ数年のことですし、恥ずかしながら神戸の哲学カフェにも参加したことがありませんでした。自由な議論の流れに巻き込まれつつ、即興で問いを立てていく藤本さんのスタイルを見て、カフェフィロが設立当初から大事にしてきたことの片鱗に触れた気がしました。
次回は「シネマ哲学カフェ」を開始している中川さんを訪ねます。お楽しみに!
(やまもと)