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座談会:「社会のなかで生きる哲学2022」を振り返る(前編)

イベントレポート

カフェフィロでは昨年の11月から12月にかけて「社会のなかで生きる哲学2022」と題した企画を開催し、共通テーマ「安全」を設定してイベントを開催しました。今回、企画者を中心に内容を振り返る座談会を実施しましたので、その模様をお伝えします。

●参加者
なごテツ:井上さん、高橋さん、寺井さん
哲学カフェ尾道:山口さん
Philosophy愛知:山方さん
カフェフィロ:松川、安本、山本

それぞれの企画を振り返る

山本:「社会のなかで生きる哲学2022」ではカフェフィロの正会員とパートナー会員の皆様の有志にご参加いただき、哲学カフェなどのイベントを企画いただきました。まずは、それぞれの企画の様子を振り返りたいと思います。まずはなごテツ(パートナー会員)さんからお願いできますでしょうか?

寺井(なごテツ):なごテツでは、期間中に「安全」に関係したオンライン哲学カフェを3回実施しました。1回目は当日参加者から「安全」に関するテーマの提案を募り、「安全に関するコスト」というテーマで話し合うことになりました。

山本:「コスト」というとどのようなことが話し合われたのでしょうか?

寺井:保険などがいい例ですが、個人の場合も社会の場合も、安全を確保するためにコストをかけるということがあると思います。危険に対するリスクや恐怖心をどう評価するかということと、情報源の確からしさについての話題がでていました。

2回目の哲学カフェは「安全」と「安心」の違いをテーマにしました。客観的なものと主観的なものの違いについて話し合われたほか、変化の激しい社会と安定している社会の違いなどの話題もでてきました。1回目の哲学カフェのときもそうでしたが、今の時代は変化が激しく、安定していない社会だという意見が出ていました。

井上(なごテツ):3回目は哲学カフェのルールについて考えました。哲学カフェでどのように安全を保つのか、ということをルールという観点から考えました。皆さんが安全をどのように考えるのかという点が現れていて興味深かったです。忌憚なく意見が言える場と、安全に話せる場は薄皮1枚のような関係で、そのバランスをどうとっていくのか、などの論点ついて考えていきました。ルールだけではなく、心がまえが重要なのではという指摘も結構ありました。また、進行役だけでなくカフェマスターを置くという案も出ていました。

山本:寺井さん、井上さん、ご紹介ありがとうございます。安全について考えるいろいろなヒントが出てきたように思います。では、続いて松川さんが関わった企画についてご紹介いただけますでしょうか。

松川:私はスロウな本屋さんが主催したオンライン読書会『フラワーデモを記録する』というイベントの進行をしました。この書籍は性暴力に抗議するデモを取り上げたものです。オンライン開催でしたが、オンラインだから参加できたという方も一定数いて、そのこと自体も安全を考える上で重要な点だと思います。

当日は、なぜ被害者が被害を受けたことについて「言えない」のかということが皆さんの大きな関心になりました。痴漢などの被害が社会で軽く扱われていたり、実際にひどいことがあったことが周囲に信じてもらえないなどの要因があるという指摘がありました。他にも、危険回避のために良かれと思って周囲が行う助言や、被害者の落ち度を指摘することが被害者を追い詰めてしまう問題などについての話が出ていました。このような構造が例えば交通事故の場合でも起こるのだろうか、何が違うのかということも整理しながら参加者と一緒に考えていきました。想像力を働かせることや、当事者ではない人を巻き込むことの重要性についても語られていました。

フラワーデモ自体は各地で毎月行われているのですが、今回このような会をオンラインで開催したことで参加者がつながるきっかけになり、今後も性暴力やジェンダーバイアスについて考える会を続けたいという声も出ていました。

山本:ありがとうございます。今回の企画はスロウな本屋さんのものですが、今後色々な展開につながりそうですね。松川さんは哲学カフェ尾道(パートナー会員)の進行もされていますが、こちらはマスターの山口さんからお聞きしましょうか。

山口(哲学カフェ尾道):哲学カフェ尾道では「安全は、保障できるのか?」というテーマで哲学カフェを開催しました。オンラインと対面参加のハイブリッド形式で、松川さんに進行していただいています。

対話の内容とは観点が違うのですが、今回、問いを決める際のプロセスが新鮮だったということがあります。いつもはテーマは自分発信で、自分が問いたいテーマを選ぶというのを哲学カフェ尾道の特徴にしていました。今回統一テーマが与えられていたため、そこから自分たちが扱う問いを決める際にも結構勝手が異なり苦戦したのですが、これが新鮮な体験で面白みもありました。実はこういう企画では、参加者よりも主催者側の方が変化を感じることもあるのではと思います。

松川:最終的に決めた「安全は保障できるのか」というテーマはマスターらしさを感じるものでしたが、マスター発でないテーマということもあり、始まるまではちょっと不安もありました。でも、普段から哲学カフェ尾道に参加してくださるコアな人が集まった感じで、対話に入ると特に違和感なく進んだように思いました。

内容としてはワールドカップの時期だったということもありサッカーのルールが例に出たり、原発の話題も出ていました。哲学カフェに関心のある方が多く参加しているため、「対話の安全」にも参加者の関心が集まっていました。
出てきた論点を羅列すると、誰かが「安全ですよ」いうことと「安全のために行動する」ことは違うのか。対話の安全は保障できるのか。安全でない状況とはどういうものなのか。誰が安全を保障してほしいのか。などです。

最後の方に、いまみんなが「安全」といっているのは「信頼」なんじゃないか、というツッコミがあったのが印象的でした。私たちは実は信頼を求めているのか、信頼と安心は言い換えられるのかということも考えました。
対話の安全に関しては、対話の安全は進行役に任せるものではなく、みんなでつくるものでは?という進行役にとっては頼もしい意見もありました。

山口:哲学カフェ好きな方が参加してくれた感じでしたね。テーマから国防についての話が結構出るかなと思ったんですが、意外とそのような話はあまり出なかった。

松川:たしかに身近な話題が多かったですが、そこから安全保障の話題にもつながる論点もありそうと感じています。

山本:カフェフィロ主催のイベントとしては「テツトーク!『どうすれば戦争がなくなるのか』」を開催しました。この本はカフェフィロメンバーの寺田さんが書いたもので、カントの『永遠平和のために』の内容を紹介しつつ「世界市民の哲学」について論じるものでした。
この本は2019年に書かれたものですが、その後国際情勢はますます緊迫しているように思えます。当日は直近のウクライナ情勢について本書の内容と絡めてお話ししたほか、NGOの可能性と限界、(価値観などの)「普遍性」と「多元性」の関係など、本書が提起する問題を考えていきました。いずれも具体的な国際情勢の話を念頭に置いたものだったため、視聴者からの意見やコメントもかなり踏み込んだものになっていたことが印象的でした。

(後編に続く)

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