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【ヤマモトが行く】第一回:寺田俊郎さん(@Café Klein Blue)

ヤマモトが行く

こんにちは!

「ヤマモトが行く」ではカフェフィロメンバーの開く哲学カフェを山本が訪れ、メンバーと対談する様子をお伝えします。第一回は東京神保町の「Café Klein Blue」で哲学カフェを開いている寺田俊朗さんを訪問しました。

Café Klein Blueはとても雰囲気のある居心地の良いカフェです。当日の哲学カフェのテーマは「困窮している人を助けること」でしたが、皆さん様々な例を用いて、活発に発言されているのが印象的でした。哲学カフェ終了後に寺田さんに話を伺いました。

クラインブルー

「どんでん返し」の面白さ

山本:代表が行く、記念すべき第一回目です。よろしくお願いします。

寺田:はい、よろしくお願いします。

山本:今回の哲学カフェのテーマは「困窮している人を助けること」でしたが、対話の中で参加者の共通認識を確認していく場面が多かったように感じました。

例えば「人を助けるには相手のことをよく知り、ニーズを見極めることが必要である」という意見が途中で出されました。このことに同意する参加者が多かったので「今からの対話は、これを共通の前提としましょう」と寺田さんが言う場面がありましたね。寺田さんの哲学カフェではこのような進行がされる場合が多いのでしょうか?

寺田:常にこのようなやり方をするわけではありませんが、多いと思います。今回は特に参加者の共通認識をしっかり確認することが必要だと感じました。理由を聞かれると難しいですが、勘みたいなものですね。

山本:勘、という感覚は分かる気がします。今回はテーマに対して、冒頭から「そもそも助けるとはどういうことか?」「困っているとはどういうことか?」という問いが自然な形で参加者から出されていたので、「面白くなりそうだな」という感覚を僕も持ちました。こういうのも勘かもしれませんね。寺田さんが今回の哲学カフェで興味深いと感じた部分はどんなところでしょうか?

寺田:今回は最後にどんでん返しがありました。先ほどの例の通り、途中まで「人を助けるには相手のことをよく知り、ニーズを見極めることが必要である」という前提で話が進んでいました。そこで最後に「あしながおじさん」の例を用いて「匿名で人を助ける方がより純粋なのではないか」という意見が出され、皆さんはその意見に結構納得されていた。ところが匿名での人助けの場合、助ける相手のことはよく分からず、ニーズを確認できないことが多いんですね。そのことに気付いて皆さん驚いていました。今まで共有していた前提が覆されたスリリングな瞬間でしたね。

山本:前提を共有し、ステップを踏んで考えていったからこそ「どんでん返し」の面白さを味わえるんですよね。僕も参考にしたいと思いました。

クラインブルーの窓

↑今回はカフェの奥にある窓際の部屋でお話ししました。

神保町の哲学カフェは「十年一日」?

山本:僕が初めて寺田さんの哲学カフェに参加したのは、もう5年以上前になります。神保町の哲学カフェはかなり歴史がありますよね。

寺田:Klein Blueで哲学カフェを始めたのは2009年ぐらいからなので、今年で7年ぐらいになりますね。それよりも前は神保町の他のカフェでやっていました。

山本:寺田さんの哲学カフェって、いつも満員というイメージがあります。

寺田:今では定員を決めているので人数は限られていますが、昔は参加者が30人を超えることもありました。結果的に貸切状態になってしまい、お店にご迷惑をおかけすることもありましたね。

山本:すごいですね。7年間で哲学カフェの雰囲気や様子に何か変化はありましたか?

寺田:以前「哲学カフェのつくりかた」にも書きましたが、ぼくの哲学カフェは十年一日のごとく変化がありません(笑)進化に取り残されてガラパゴス化しているような気もするので、他の哲学カフェがどのような様子か見に行きたいですね。

山本:京都にもぜひお越しください(笑)
今回の哲学カフェでははじめに「哲学カフェはみなさんの発言とやり取りによって成り立つイベントです」という前置きの後、3つのルール説明がありました。

・自分の言葉で話す
・人の話をよく聞く
・自分の意見は変わるかもしれない、という前提を持つ

このルールも毎回ご説明されているのでしょうか?

寺田:毎回言っていますね。100回ぐらい聞いた人もいるんじゃないかな(笑)当初からほとんど変わっていないですね。

山本:「自分の言葉で話す」「人の話をよく聞く」ということは僕も前置きで説明することが多いのですが、3つ目についてはあまり明示的に言っていなかったので、なるほどと思いました。参加者の中には一度出した意見を撤回したり、途中で意見が変わったりするとダメだと思っている方も結構いますので。

寺田:ディベート感覚で自分の意見を死守するというのは、哲学カフェでは面白くないですよね。3つ目のルールは「自分の信条を押し付けない」という言葉で説明していたこともあったのですが、「自分が変わっていく」という言葉の方がいいな、と思うようになってこのルールにしています。

哲学が生きる場

山本:寺田さんが哲学カフェで大切にしていることをお聞きしても良いでしょうか?

寺田:言葉にするのは難しいので、これまでの話から察して欲しいところではありますが(笑)当初から大事にしてきたことをお話しすることはできます。

哲学カフェの実践っていうのは場づくりをしていくことなんですよね。対話の場を開く、ということ。参加者が主体だし、参加者が対話を通じて考えることのできる場を作りたいと思ってこれまで活動を続けてきました。何か啓蒙のようなことをするつもりはないし、哲学の存在を知って欲しいとか、そういう普及を目指すような活動のつもりではやっていない。

山本:そこはよく誤解されますよね。学問としての哲学をもっと知って欲しいとか、そういうことを目指した活動ではない、ということですよね。

寺田:でも、哲学の普及ではないとは言いながらも、哲学カフェは哲学が生きる場ではあると思います。 臨床哲学の立場から哲学カフェをはじめたぼくの場合は、今から思えば哲学から世間へのアプローチをしていた。活動を続けるうちに、今では世間の方から哲学を見ることができるようにもなってきたけど、「社会のなかで生きる哲学」というのも、当初はそういう方向から来ていたのだと思いますね。

山本:僕も大学で哲学を学んでいたのですが、哲学カフェをはじめたときは啓蒙的な視点を少なからず持っていたと思います。でも活動を続けるうちに、参加者から返ってくるものの方がすごく大きいことに気づいて、それから考えが変わったんです。大学で学ぶ哲学というのは普段は味気ない、灰色のようなものに僕には思えていたんですが、哲学カフェの場ではそれが色づくような感覚がある。うまくは言えませんが、まさに寺田さんがおっしゃるような「哲学が生きる」ということなんだと思います。

寺田:そういう感覚を、僕はときどき冗談めかして哲学研究者のリハビリとよんでいます(笑)哲学カフェは哲学研究者が哲学者になろうと努力する場でもあると思います。この感覚は大事にしたいですね。

山本:最近は様々な方が哲学カフェを開催していますが、哲学研究者が進行役をすることのメリットはどのようなものでしょうか?

寺田:哲学研究者でなくても哲学カフェの進行はできますし、進行する人ならではの様々なよさがあると思いますが、哲学のバックグラウンドを持つ方が進行することで生まれるよさ、というものはあると思います。従来の哲学の議論を踏まえていれば、例えば「このままの流れで対話を続けていればどういう結論になるのか」ということを予想することもできますし、参加者が考えやすくなるように対話の流れを図式化することもできると思います。一方で弊害もあって、参加者の間で生まれた面白い対話の流れを従来の哲学の議論の枠に押し込めてつまらなくしてしまう、みたいなことには気をつけないといけない。もしかすると哲学研究者は進行役じゃなくて参加者としてその場にいるだけでもいいかもしれないですね。

山本:すごくわかります(笑)図式化をすると途端に面白く無くなることがありますよね。 哲学カフェでは従来の哲学の議論の図式にはまらないような議論が出てくる場合もありますし、その面白さを大切にしたいです。

寺田:ぼくは専門的な哲学研究と哲学カフェの議論の間に本質的に差はないと考えていますし、どちらがどちらに対しても貢献しうると思います。例えば今回の哲学カフェでは人を助ける際の「匿名的な連帯」という考え方が出てきましたが、これは従来の倫理学や哲学の議論ではあまり出てこない発想で、新たな考えにつながる可能性もあると思います。

臨床哲学が当初「外に出る」ということを目指したとき、その時点で哲学の内と外という線引きを自分たちでしていたのではと今では思います。実はそのような区別はないのでは、というのが今のぼくの考えですね。

山本:なるほど。専門的な哲学研究と街の哲学カフェ、お互いがお互いを補完する関係になればいいですね。おっと、ずいぶん長くしゃべってしまいました。寺田さん、本日はありがとうございました。

寺田:ありがとうございました。

おわりに

「ヤマモトが行く」第一回目、いかがでしたでしょうか?「哲学が生きる」場としての哲学カフェという視点は、個人的に今後も考えてみたいと思いました。今後も各地のカフェフィロメンバーを訪ねて行きます。次回をお楽しみに!

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