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【ヤマモトが行く】第三回:中川雅道さん(@シネマ哲学カフェ)

ヤマモトが行く

こんにちは!やまもとです。
カフェフィロメンバーが開催する各地の哲学カフェを訪れ、お話を聞く「ヤマモトが行く」。今回は宝塚のシネ・ピピアで「シネマ哲学カフェ」を開催されている中川さんにお話を伺いました。

私が訪問したのは1月の頭で、題材は当時話題だった映画「この世界の片隅に」。当日は入場できない人が出るほどの盛況ぶりで、シネマ哲学カフェにもたくさんの方がご参加されていました。

会場は映画館に併設されている「バグダット・カフェ」。みんなで感想を共有しながら、映画が問いかけてくるものについてじっくりと考えるよい時間を過ごせました。

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「シネマ哲学カフェ」ができるまで

山本:まず、中川さんが哲学カフェをはじめたきっかけを教えてください。

中川:哲学カフェの存在を知ったのは、阪大の学生だったときに授業(対話技法論)の中で聞いたのがきっかけでした。最初に参加したのは阪大の学園祭での哲学カフェで、その後に話の流れで進行役やってみないか、ということになって。当時は中之島哲学コレージュがまだできる前で、なにわ橋駅の建設中の工事現場で進行役をやったのが初回ですね。当時は講義の延長上みたいな感じで引き受けたんですが、実際進行役をやってみると、全然うまくできませんでした(笑)
その後は自分でももう一度やってみたいな、ということで、神戸の「JUN」や阪大の「坂」というカフェでやるようになりました。シネマ哲学カフェをやりはじめたのもその時期ですね。

山本:シネマ哲学カフェも哲学カフェと変わらない時期にはじめられたんですね。

中川:フランスでは「シネフィロ」という名前で同じような会が行われているらしいです。当時は日本の哲学カフェもいろんな可能性を模索していて、ある意味では「なんでもあり」でしたので、シネマ哲学カフェもいろんな形の一つとしてやってみた、という感じですね。

「同じ映画を観る」ということ

山本:シネマ哲学カフェでは同じ映画を観る、という経験を共有するので、そのあとの話がより深まるように感じました。

中川:そのあとの対話でも、できるだけ映画のシーンを参照するように気をつけています。途中で一般的な話になると退屈そうになる人もいるんですけど、そういう時に映画のシーンの話に戻ると、みなさん息をふきかえしたように元気になるんですよね(笑)

山本:その話は結構面白いなと思いました。映画とかの題材を使う哲学カフェだと、題材から問いを立てて一般的な議論に移行するパターンが多いような気がするんですよね。作品からは次第に離れるようなイメージで。

中川:そのやり方も面白いと思いますけど、問いができるまでのプロセスが忘れられてしまう場合があるんじゃないかと思います。一般的なテーマになっても、そこで出た議論をシーンの話に適用したりして、都度往復するのが大事じゃないかなと。参加者から哲学カフェが「面白かった」と言われるのは、議論を通じて作品の見方が変わったから、という理由が多いんですよね。もう一度映画を観ると違った見方ができるようになると面白いですよね。

山本:ある意味お得ですね(笑)
題材の映画っていつもどうやって選んでいるのでしょうか?

中川:実は、先に日程を決めてしまいます。その中から選ぶから、あまり選択肢はないんですよね(笑)

山本:あ、そうなんですね(笑)

中川:それでも今まで題材として「ハズレ」と思うものはあまりなかったですね。テクニカルすぎたり、題材が一般的すぎる映画はあまり選ばないようにしているんですけど。見終わった後に、誰かに喋りたくなるような作品だとうまくいきますね。

進行役の楽しみ方?

山本:中川さんは学校でも哲学対話をされていますが(※)、街中での哲学カフェの面白さ、みたいなのは感じますか?

中川:この人は何で哲学カフェにきているのかなぁ、とか、その人の背景を考えるのが最近面白いですね。哲学カフェ進行役の楽しみ、というのがあるんじゃないかと思います。そんなの考えるのは悪い進行役かもしれませんけど(笑)

山本:それは上級者の楽しみですね(笑)でも、発言からその人の人生が透けて見えるような感じは私もわかるような気がします。

中川:学校で対話する場合は、自分は普段生徒たちとずっと一緒にいて、背景を知っているから、対話の中の発言に対しても「前の授業でこんなことがあったからかな」とか「この経験のことを話しているのかな」と推測してしまいます。それを哲学カフェでもやってしまうんでしょうね。参加者の経歴を推測する、みたいな。

山本:確かに、発言から参加者の職業がなんとなくわかることがあるんですよね。自己紹介はしてないけど、「この人、絶対学校の先生だ!」みたいな感じで(笑)

中川:先生って、雰囲気とか発言とかでわかります?

山本:中川さんの場合は気付かれないかもしれませんね(笑)他にも製造業とか、経営者とか、ちょっとした言葉遣いに職業柄を感じることは結構あります。職業に染み付いた考え方、というのがあるのかもしれません。

中川:考え方に職業が出るのは面白いですね。仕事を続けていると結構息苦しくなることもあるので、哲学カフェで「こんな人もいるのか」と色んな人の存在を知ることができるのは息抜きにもつながります。色々な考え方がある中で、参加者がある考えを持つようになった、その背景を聞くのも面白いです。

※中川さんは現在神戸大学附属中等教育学校の教師として、学校での哲学対話にも取り組まれています。

自分の場をつくる楽しさ

中川:自分はしばらく哲学カフェをお休みしていたんですが、再開するとやはり面白いですね。哲学カフェをずっと続けていると「哲学カフェって本当に面白いのかな?」と思う時期もあったんですけど。でも何でやりたいのか、と改めて聞かれると「何でかなー?」ってなる(笑)

山本:それ、自分も実は聞かれたら困る質問なんです(笑)

中川:そんなやつが、今では自分の生徒にも進行役をやってほしいと思っている。それって変じゃないですか。そうすると、哲学カフェの何が楽しいのか、それぞれの立場での楽しみ方があるのか、みたいなことを考えるようになったんですね。今思うのは、「自分の場をつくる」という楽しさもあるんじゃないかなと。

山本:確かに、哲学カフェにずっと参加されている方でも、自分で哲学カフェを開きたいと思う人と、そうでない人がいますね。

中川:そう考えると自分は「開きたい派」人間ですね。自分が参加しているだけだったら、哲学カフェにこんなに行きたいと思わない(笑)他の人の哲学カフェは気を使う、という面があるからかもしれません。それやったら自分の場で自由にできる方がいいかな、と。

山本:なるほど。進行役をするから自由になれないとか、楽しめないということはないんでしょうか?

中川:自分はあまり「進行」している意識はないので、それはないですね。でも、そうじゃなくて、参加者の方が楽しめる、という人もいる。結局、自分が楽しくないと周りも楽しくないから、楽しい方を選ぶのがいいんでしょうね。

中川さんの野望?

山本:中川さんは今後どんな場を作っていきたいと思いますか?

中川:どんな参加者の方でも、面白い発言をされる場面ってあるんですよね。それまではあんまり面白くなかったのに、ある場面になると水を得た魚のように急に面白くなる(笑)自分はそういう瞬間が好きですね。その瞬間、その人のことを知ったような気になれる。
そういう意味では、誰でも面白い発言をできるような、誰でもイキイキとなる場面があるような、そういう場に自分の哲学カフェはなればいいかなと思ってます。
一方で、自分が作りたい場が重荷になってはいけないなと思いますし、無理して哲学カフェを続けるのもよくないかなと思います。案外見逃されがちですけど、哲学カフェを継続すること自体、結構大変なことですし。

山本:無理せず続ける、というのも楽しみ方の一つかもしれませんね。ちなみに、今後学校での対話活動でやりたいことはあるんでしょうか?

中川:野望はいっぱいありますね(笑)。とにかく、学校を開いていきたいと思っています。大学は最近前よりも開かれてきたけど、中学校、高校に関してはまだまだオープンでない。地域からもオープンにしてほしいという要望があるけど、学校側には色んな事情があってなかなか上手くいかない。そういうときに、学校でも地域に開かれた哲学対話や哲学カフェをやると面白んじゃないかと思っています。
今度文化祭で生徒が哲学カフェをやりますけど、こういうことをやっていくと何か面白いことが起こるんじゃないかと思います。学校って批判される立場に回ることが多いんですが、もっと面白い場にできるんじゃないかな、と思っています。

山本:学校で哲学カフェが開かれることで、どんなことが起こるんでしょうね。私も楽しみです。

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おわりに

いかがでしたか?中川さんのお話を伺って、哲学カフェには参加者にも進行役にも色々な楽しみ方があるんだなと改めて感じました。自分がなぜ哲学カフェを楽しいと感じるか、私もじっくりと考えてみたいと思います。

最後の話にもありましたが、中川さんの学校の文化祭で生徒さんたちが哲学カフェを開催します。詳細はこちらから。ご興味のある方は是非遊びに行ってみてください!

(おわり)

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